独唱:アレクサンドル・トシチェフ(テノール)
2012年5月24日、バウマン記念モスクワ国立工科大学におけるトシチェフ生誕50周年記念演奏会の映像。
ミハイル・ポドガイスキー指揮ミサイロフ記念ナポリ・アンサンブルとの共演。

ВДОЛЬ ПО УЛИЦЕ МЕТЕЛИЦА МЕТЁТ

通りは吹雪が吹いている
Музыка: А. Варламов
Слова: Д. Глебов

ヴァルラーモフ作曲
グレボフ作詞
Вдоль по улице метелица метёт,
За метелицей мой миленький идёт.
Ты постой, постой, красавица моя,
Дозволь наглядеться, радость, на тебя.
Ты постой, постой, красавица моя,
Дозволь наглядеться, радость, на тебя.


通りは吹雪が吹いている
吹雪の後を我が愛しの人が行く
待って、待っておくれよ、美しい人よ
我が喜びよ、心行くまで顔を見せておくれ
待って、待っておくれよ、美しい人よ
我が喜びよ、心行くまで顔を見せておくれ
На твою ли на приятну красоту,
На твоё ли что на белое лицо.
Ты постой, постой, красавица моя,
Дозволь наглядеться, радость, на тебя.


貴女のその素敵できれいな顔を
貴女のその色白の顔を
待って、待っておくれよ、美しい人よ
我が喜びよ、心行くまで顔を見せておくれ
Красота твоя с ума меня свела,
Иссушила добра молодца, меня.
Ты постой, постой, красавица моя,
Дозволь наглядеться, радость, на тебя.
Дозволь наглядеться, радость, на тебя.


貴女の美貌にすっかり夢中
若者の自分がやつれ果てるほど
待って、待っておくれよ、美しい人よ
我が喜びよ、心行くまで顔を見せておくれ
我が喜びよ、心行くまで顔を見せておくれ
 単に「吹雪」(МЕТЕЛИЦА)と呼ばれることもある有名な歌です。ドミトリー・グレボフ(1789-1843)が1817年に書いた詩に「赤いサラファン」でお馴染みのアレクサンドル・ヴァルラーモフ(1801-1848)が1842年に曲を付けました、と、これまで単純に思い込んでいましたが、この曲の成立はそう簡単なものではなかったようです。
 この曲の原形は、ロシア音楽史ではよく知られている1790年出版の「リヴォフ・プラーチの民謡集」に収録されているようです。この民謡集は、帝政ロシア国歌「神よ、皇帝を守り給え」を作曲したアレクセイ・リヴォフ(1798-1870)の大叔父に当たる詩人・建築家・学者ニコライ・リヴォフ(1751-1803)がチェコの作曲家イヴァン(ヤン)・プラーチ(1750頃-1818)の協力を得て作ったもので、100曲の民謡が収められています(好評を得て後に重版され収録曲も増えました)。ソ連時代の復刻版がPDFファイル化されているのを下にリンクしておきますが、原形と言われるのは、7曲目(69ページ)に収録されている「СКУЧНО, МАТУШКА, ВЕСНОЙ МНЕ ЖИТЬ ОДНОЙ(お母さん、春なのに一人ぼっちでさみしい)」で、確かに現行の歌詞と同じ句がちらほら見られます。曲調はかなり異なるようですが(プラーチの編曲どおりではないようですがナデジダ・オブーホヴァの録音を下にリンクしておきます)。グレボフは1817年に民謡集の歌詞を改訂する形で「СКУЧНО, МАТУШКА, МНЕ СЕРДЦЕМ ЖИТЬ ОДНОЙ(お母さん、我が心は孤独でさみしい)」として発表します。この版も現行の歌詞とはかなり異なります。ヴァルラーモフが曲を付けたのは、この1817年グレボフ版ではなく、流布していくうちに改変が加えられた現行の歌詞に近い版だと思いますが、インターネットを検索するとヴァルラーモフのメロディーに合わせてこの1817年版の歌詞を歌っている録音がいくつかあります(下に映像を一つ載せておきます)。
 某作詞、某作曲と楽譜に記されていても、実際はそれに至る秘められた歴史があるものなのですね。たまにこの曲の歌詞は「民謡詩」とする場合がありますが、(それを記したのが怠け者でなければ)それも間違いではない、といえるのでしょうね。


◆参考:ロシア語版ウィキペディアa-pesni
リヴォフ・プラーチの民謡集(Собрание русских народных песен с их голосами、PDFファイル)
ナデジダ・オブーホヴァの歌う「お母さん、春なのに一人ぼっちでさみしい」


独唱:イヴァン・ディデンコ(テノール)
1956年7月24,25,27日、イギリスにおけるEMIレーベルへのセッション録音。


独唱:ニコライ・ゲッダ(テノール)
クラウディ・プティッツァ指揮モスクワ放送合唱団との共演。
1980年、モスクワ音楽院大ホールでの演奏会の映像。


「お母さん、我が心は孤独でさみしい(СКУЧНО, МАТУШКА, МНЕ СЕРДЦЕМ ЖИТЬ ОДНОЙ)」版の演奏。
第116幼稚園の皆さん。
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